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したやそうわ
下谷叢話
永井 荷風
自序「下谷叢話」春陽堂、1926(大正15)年3月20日<br>第一~第四「女性 第五巻第二号」プラトン社、1924(大正13)年2月1日<br>第五~第十一「女性 第五巻第三号」プラトン社、1924(大正13)年3月1日<br>第十二~第十五「女性 第五巻第四号」プラトン社、1924(大正13)年4月1日<br>第十六~第二十二「女性 第五巻第五号」プラトン社、1924(大正13)年5月1日<br>第二十三~第二十九「女性 第五巻第六号」プラトン社、1924(大正13)年6月1日<br>第三十~第三十五「女性 第六巻第一号」プラトン社、1924(大正13)年7月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 122,971 字 · 246 页
和学を好み網代弘訓を師として国典を読み、又京師の縉紳家にも参して殊に三条内府実万公の邸に親しく昵近せり。こゝを以て時事を憂ひて師と物語るにも常に此義にいたる。(中略)この年師江戸に帰りて家を下谷御徒町に移し教授の業常の如くにありしが、十月八日上野寛永寺の宿坊なる凌雲院に往きて、例の如く寺僧に講義を聞かしめ家に在らず。夜二更の頃俄に町奉行所の与力同心あまた入来り、藤森恭助御不審の次第あり家内の文書類を出して悉く見せられよと、家内の者の驚き騒ぐを叱りつけ、書斎の内に押入りて几案箪笥ともいはず、こゝかしこを捜り尽く持ち去りぬ。是はいかなる事の出来ぬると、門人等も大に恐れ早く師に由を告ぐべしと、一両人の門弟走り出でんとせしに、常に師に従ひて往ける老僕あへぎ/\立帰り只今何者とも知らず凌雲院に来り先生の御宅に俄に対面を請ふものあり急ぎ帰らせ給へと申す。師はいそがはしく凌雲院を出で三枚橋の傍に至りし時、左右の小路より人数多く出来り尋問ふべき仔細あり町奉行所へ参り候へとて引連れて候と告ぐ。家内のもの等はこゝに於て始て時事に関係せられし嫌疑ゆゑなりと知りぬ。斯くて師は町奉行所に至りしに当時の奉行池田播磨守召出して汝は水戸前中納言殿より月扶持を贈らるゝ由、彼の君の事を憂ひ申すやいかにと問ふ。