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やまのじんせい

山の人生

柳田 国男

山の人生「アサヒグラフ 第四巻第二号~第五巻第七号」朝日新聞社、1925(大正14)年1月7日~8月12日<br>山人考「大正六年日本歴史地理学会大会講演手稿」1917(大正6)年11月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,022 字 · 226 页

青空文庫

一旦は昔の家に還ってみたが、身内の者までが元の自分であることを知らず、怖れて騒ぐのでせん方もなく、再び山中の生活に復ってしまったというのは哀れである。

明治の末頃にも、作州那岐山の麓、日本原の広戸の滝を中心として、処々に山姫が出没するという評判が高かった。裸にして腰のまわりだけに襤褸を引き纏い、髪の毛は赤く眼は青くして光っていた。或る時も人里近くに現われ、木こりの小屋を覗いているところを見つかり、ついにそこの人夫どもに打ち殺された。しかるにそれをよく調べてみると、附近の村の女であって、ずっと以前に発狂して、家出をしてしまった者であることが分った。

女にはもちろん不平や厭世のために、山に隠れるということがない。気が狂った結果であることは、その挙動を見れば誰にでも分った。羽後と津軽の境の田代岳の麓の村でも、若い女が山へ遁げて入ろうとするのを、近隣の者が多勢追いかけて、連れて戻ろうと引き留めているうちに、えらい力を出して振り切って、走り込んでしまったという話を狩野亨吉先生から承ったことがある。

山に走り込んだという里の女が、しばしば産後の発狂であったことは、事によると非常に大切な問題の端緒かも知れぬ。