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やまのじんせい
山の人生
柳田 国男
山の人生「アサヒグラフ 第四巻第二号~第五巻第七号」朝日新聞社、1925(大正14)年1月7日~8月12日<br>山人考「大正六年日本歴史地理学会大会講演手稿」1917(大正6)年11月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,022 字 · 226 页
『仙梅日記』には駿州梅ヶ島・仙ヶ俣の旅行において、一人の案内者が山中さんに話した。雪の後に山男の足跡を見ることがある。二尺ほどの大足である。門野というところの向う山には、山男が石に歩みかけた足跡がある。岩が凹んで足の形を印している。いかほどの強い力だろうかといったそうである。
こういう人々の心持では、巌石の上に不朽の痕跡を止めることも、大人ならば不可能でないと思ったのであろうが、親しく実際についてみると、ほとんとその全部が山男たちの関与するところではなかった。大人足跡という口碑は、すでに奈良朝期の『常陸風土記』大櫛岡の条にもある。丘壟の上に腰かけて大海の蜃を採って食ったといい、足跡の長さ四十余歩、広さは二十余歩とある。『播磨風土記』の多可郡の条にも巨人が南海から北海に歩んだと伝えて、その踰ゆる迹処数々沼を成すと記してある。そこで問題は我々の前代の信仰に別に大人と名づけた巨大の霊物があって、誤ってその名を山人に付与したのではないかということになるが、もしそうならばこれとともに足跡に関する畏敬の情までも、移して彼に与えたことになるのである。すなわち羽後の農民などが足跡の砂を大切にしたのはむしろ山人史末期の一徴候で、事蹟が不明になったためにかえって一層これを神秘化したものでないかとも思われるのである。