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やまのじんせい

山の人生

柳田 国男

山の人生「アサヒグラフ 第四巻第二号~第五巻第七号」朝日新聞社、1925(大正14)年1月7日~8月12日<br>山人考「大正六年日本歴史地理学会大会講演手稿」1917(大正6)年11月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,022 字 · 226 页

青空文庫

翌朝その青年は正気に復して、戻って常のごとく働こうとしたけれども、仲間の者は彼が魔神と何か契約をしてきたものと疑い、畏れ憎んで近づかず、その晩のうちに毒殺してしまったと記している。わが邦で狐や狸に憑かれたという者が、その獣らしい挙動をして、傍の者を信ぜしめるのと、最もよく似た精神病の兆候である。

猿の婿入という昔話がある。どこの田舎に行ってもあまり有名であるために、かえって子供までが顧みようとせぬようになったが、じつは日本にばかり特別によく成育した話で、しかも最初いかなる事情から、こんな珍しい話の種が芽をくむに至ったかは、説明しえた人がないのである。三人ある娘の三番目がことに発明で、一旦は猿に連れられて山中に入って行くが、のちに才智をもって相手を自滅させ、安全に親の家に戻ってくることになっているのは、もとは明らかに魔界征服譚の一つであった。今でも落語家の持っている王子の狐、或いは天狗の羽団扇を欺き奪う話などと同様に、だんだんに敵の愚かさが誇張せられて、聴く人の高笑いを催さずには置かなかったのは、武勇勝利の物語に、負けて遁げた者の弱腰を説くのと、目的は一つであって、つまりは猿の婿も怖るるに足らずという教育の、かつて必要であったことを意味している。