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やまのじんせい

山の人生

柳田 国男

山の人生「アサヒグラフ 第四巻第二号~第五巻第七号」朝日新聞社、1925(大正14)年1月7日~8月12日<br>山人考「大正六年日本歴史地理学会大会講演手稿」1917(大正6)年11月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,022 字 · 226 页

青空文庫

洞川という谷底の村に、今では五鬼何という苗字の家が五軒あり、いわゆる山上参りの先達職を世襲し聖護院の法親王御登山の案内役をもって、一代の眉目としておりました。吉野の下市の町近くには、善鬼垣内という地名もあって、この地に限らず五鬼の出張が方々にありました。諸国の山伏の家の口碑には、五流併立を説くことがほとんと普通になっています。すなわち五鬼は五人の山伏の家であろうと思うにかかわらず、前鬼後鬼とも書いて役の行者の二人の侍者の子孫といい、従ってまた御善鬼様などと称して、これを崇敬した地方もありました。

善鬼は五鬼の始祖のことで、五鬼のほかに別に団体があったわけではないらしく、古くは今の五鬼の家を前鬼というのが普通でありました。その前鬼が下界と交際を始めたのは、戦国のころからだと申します。その時代までは彼らにも通力があったのを、浮世の少女と縁組をしたばかりに、のちにはただの人間になったという者もありますが、実際にはごく近代になるまで、一夜の中に二十里三十里の山を往復したり、くれると言ったら一畠の茄子をみな持って行ったり、なお普通人を威服するに十分なる、力を持つ者のごとく評判せられておりました。