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やまのじんせい
山の人生
柳田 国男
山の人生「アサヒグラフ 第四巻第二号~第五巻第七号」朝日新聞社、1925(大正14)年1月7日~8月12日<br>山人考「大正六年日本歴史地理学会大会講演手稿」1917(大正6)年11月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,022 字 · 226 页
狒々という大猿が日本にも住むということはもう信ずることがむつかしくなった。出逢った見たという話は記事にも画にも残っているものが多いが、注意してみると、まるまる幻覚の産物でなければ、必ずただの老猿を誤ってそう呼んだまでである。従って岩見重太郎、もしくは『今昔物語』のちゅうさんこうやのごとき例は、すこしでも動物学の知識を損益するところはないわけである。しかも昔話にまでなって、このように弘く伝わっているのを見ると、猿の婿入は恐らくある遠い時代の現実の畏怖であった。少なくとも女性失踪の不思議に対する、世間普通の解釈であった。どうしてそんな愚かしい事が、信じえられたかと思うようであるが、他に真相の説明がつかなかった時代だから仕方がない。一種の精神病というがごとき漠然たる理由では、今日でもまだ承知する者は少ないのである。正月と霜月との月初めの或る日を、山の神の樹かぞえなどと称して、戒めて山に入らぬ風習は現に行われている。もしこの禁を犯せばいかなる制裁があるかと問えば、算え込まれて樹になってしまうというもあれば、山の神に連れて行かれるなどともいっているところがある。