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やまのじんせい
山の人生
柳田 国男
山の人生「アサヒグラフ 第四巻第二号~第五巻第七号」朝日新聞社、1925(大正14)年1月7日~8月12日<br>山人考「大正六年日本歴史地理学会大会講演手稿」1917(大正6)年11月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,022 字 · 226 页
その長命に証人はなかったが、両人ながら古い事を知ってよく語ったので、聴く人はこれを疑うことができなかった。ただしその話は申合せたように源平の合戦、義経・弁慶の行動などの外には出なかった。それからまた常陸坊海尊の仙人になったのだという人が、東北の各地には住んでいた。もちろん義経の事蹟、ことに屋島・壇の浦・高館等、『義経記』や『盛衰記』に書いてあることを、あの書をそらで読む程度に知っていたので、まったくそのために当時彼が真の常陸坊なることを一人として信用せざる者はなかったのである。
今日の眼から見れば、これを信ずるのは軽率のようであり、欺く本人も憎いようだが、恐らくは本人自身も、常陸坊であり、ないしは八百比丘尼なることを、何かわけがあって固く信じていたものと思われる。それも決してありえざることではない。参河の長篠地方でおとらという狐に憑かれた者は、きっと信玄や山本勘助の話をする。この狐もまた長生で、かつて武田合戦を見物していて怪我をしたという説などが行われていたために、その後憑かれた者が、みなその合戦を知っているような気持にならずにはおられなかったのである。