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やまのじんせい

山の人生

柳田 国男

山の人生「アサヒグラフ 第四巻第二号~第五巻第七号」朝日新聞社、1925(大正14)年1月7日~8月12日<br>山人考「大正六年日本歴史地理学会大会講演手稿」1917(大正6)年11月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,022 字 · 226 页

青空文庫

天狗ばかりは僧形であっただけに、感心に女には手を掛けないようだと話がきまると人は別にまた山賊の頭領という類の兇漢を描き出して、とにかくにこの頻々たる人間失踪の不思議を、説明せずにはおられないようであった。しかも実際は小説・御伽草子・絵巻物以上に的確に真相を突留めることは、求めたからとてできることではなかった。

別離を悲しむ人々の情からいえば、いかなる場合にもまだどこかの谷陰に、活きて時節を待っているものと、想像してみずにはいられなかったでもあろうが、単にそのような慾目からでなくとも、現実に久しい歳月を過ぎてのち、ひょっこりと還ってきた先例もあれば、またたしかに出逢ったという人の話を、聞きだした場合も多かったのである。単に深山に女の姿を見たというだけの噂ならば、その他にもまだいろいろと語り伝えられていた。たとえそれがわが里でいなくなった者とは何の関係もなく全然見ず知らずの別の土地の事件であっても、とにかくに人居を遠く離れた寂寞たる別世界にも、なお何か人間の活きて行く道があるらしいという推測は、どのくらい神隠しの子の親たちの心を、慰めていたかわからぬので、それがまた転じてはこの不思議の永く行われ、気の狂うた者の自然に山に向う原因ともなったのは、是非もない次第であった。