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やまのじんせい

山の人生

柳田 国男

山の人生「アサヒグラフ 第四巻第二号~第五巻第七号」朝日新聞社、1925(大正14)年1月7日~8月12日<br>山人考「大正六年日本歴史地理学会大会講演手稿」1917(大正6)年11月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,022 字 · 226 页

青空文庫

その予防の手段は仏教以前から、いろいろ綿密に講究せられていたのである。しこうしてその手段は通例甚だ煩わしい。かつ誤まって生者のためにこれを行うときは、その害もまた小さくなかった。故に単なる愛惜の情からでなくとも、一日も早くなんらかの兆候を求めて隠れてもなお生存していることを確めておく必要があったのである。アンデルセンが「月の物語」の初章に、深夜に谷川に降って燈を水に流し、思う男の安否を卜せんとしたインドの少女が「活きている」と悦んで叫んだ光景が叙べてある。普通は生死を軽く考える東洋人が、この際ばかり特に執着の切なる情を表わす理由は、全く死に伴うた厳重の方式があったためで、旅の別れの哀れな歌にも、かつはこの心元なさがまじっていたのである。夢というものの疎かにせられなかった原因もここにある。互いに見よう見えようという約束が、言わず語らずに結ばれていたのである。それが頼みにしにくくなってのち、書置という風習が次第に行われた。神隠しだけはこういう一切の予定を裏切って、突如として茫漠の中に入ってしまうのだが、しかも前後の事情と代々の経験とによって、一応はやや幸福の方の推測を下すことが、存外にむつかしくなかったらしいのである。