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やまのじんせい
山の人生
柳田 国男
山の人生「アサヒグラフ 第四巻第二号~第五巻第七号」朝日新聞社、1925(大正14)年1月7日~8月12日<br>山人考「大正六年日本歴史地理学会大会講演手稿」1917(大正6)年11月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,022 字 · 226 页
食べ物なども外から持って還るのをみると、町へも買物に行くのかも知れぬ。また子どもはもうなんべんか産んだけれども、似ていないから俺の児ではないといって、殺すのか棄てるのか、みないずれへか持って行ってしまったと、その女が語ったそうである。
山が同じく五葉山であるから、一つの話ではないかとも思うが或いはまた次のように話す者もあった。女は猟人に向かって、お前とこうして話しているところを、もしか見られると大変だから、早く還ってくれといったが、出逢ってみた以上は連れて還らねばすまぬと、強いて手を取って山を下り、ようやく人里に近くなったと思うころに、いきなり後から怖ろしい背の高い男が飛んできて、女を奪い返して山の中へ走り込んだともいっている。維新前後の出来事であったらしく、まだその娘の男親だけは、生存しているといって、家の名まで語ったそうである(佐々木君報)。これだけ込入ったかつ筋の通った事件は、一人の猟人の作為に出たと思われぬはもちろん、よもや突然の幻覚ではなかろうと思うが、それを確認させるだけの証拠も、残念ながらもう存在せぬのである。ただ少なくとも陸中五葉山の麓の村里には、今でもこれを聴いて寸毫も疑い能わざる人々が、住んでいることだけは事実である。