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しん・へいけものがたり
新・平家物語
吉川 英治
02 ちげぐさの巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页
、清盛はつねに聞かされているのだが、どうして自分のまえには、そんな運命がやって来ないのであろうか。
(卑下だ。この卑下をさえ、蹴とばせば……)
かれは、自分を乗りこえるような気もちで、そこの築土と直面した。今夜こそと思った。盗賊に似た勇をふるおうと覚悟した。
けれどそれを、心のなかで闘ったとき、そして必死に実行へかかったとき。かれの影は、高い築土の上にあったが、かれの中の妄想は、かえって燃焼されていた。発汗した毛孔を風に吹き醒まされたように、ふと、
(――待てよ)と、考えた。かれの胸に、妄想とひとつに同棲しているべつな思慮のものが呼びかけていたのである。
(……木工助じじが、いつか、まくら元にすわって、しみじみいった。和子様とて、まちがいなく、一個の男の児。手も脚も、片輪じゃおざるまいに――と。上皇の子であれ、不義の子であれ、おれは、じじのいう通り、天地が生んだ一個のものだ。なにを恟々と、こんな真似をするのか。おれが、盗もうとしているのは、実は、おれの中にあるものに過ぎないじゃないか。……おれの中の欲望)
かれは、奇態なところへ乗っている自分の姿に笑いたくなった。