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しん・へいけものがたり
新・平家物語
吉川 英治
02 ちげぐさの巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页
宿借の女御
宿借の女御
公卿の邸宅には、どこにもいるが、ここの館にもたくさんな“ヘイライさん”が飼われていた。
ヘイライとは、雑色(下僕・小者)たちが被っている平折の粗末な烏帽子をいうのである。“平礼”と文字では書く。
烏帽子は、階級の標だった。商も農も、諸職も、六位七位の布衣たちも、日常、頭に載っけている。雪隠の中でも載せている。
それは、位階官職の高い者には、まことに都合のよいものだった。頭脳の中身は粗末でも、被り物が、その人間の優位を規定し、上流の生活を、生まれながらに保証していてくれるのである。
だから、ヘイライ階級には、ありがたくもないし、被りたくない物にちがいない。しかし、飼われたる奴隷であるかれらは、主人の館では、除るわけにゆかなかった。
ただ、外へでも出るときは、たちまちそれを、ふところにねじこんで歩いたりはしていた。でも、街の者は、かれらが着ている白い木綿の制服や、その物ごしでも、すぐ、
(あれは、ヘイライさんや)
と、見抜いてしまう。それは分かりきっていながらも、かれらは、街へ出ると、自分の被り物を、邪慳にした。そこでなお、意地わるく、時の人びとは、かれらをよぶに、雑色だの、中間だの、小舎人などといい分ける代りに、ヘイライさんと、総称していた。