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しん・へいけものがたり
新・平家物語
吉川 英治
02 ちげぐさの巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页
去りゆく母
……ホホホホ。悲しいことは露ほどもなかろ。お身たちはみな、日ごろから、そろいもそろうて、男親の肩持ちじゃもののう』
去りゆく母
清盛は、そういう母のすがたに、いま、気がついた。
母の泰子は、病人のはずなのに、いつ癒ったのか、または病を冒して、起きてしまったのか、盛装しているのであった。
例によって、高価な白粉を、惜気もなく厚く用い、髪には、香料をしのばせ、まゆを、ぼうと描いて、袿衣も二十歳台の女性が着るような、あでやかなのを、着すべらせている。
(これは、ただごとではない。いつもの喧嘩とは、すこしちがう)
母のよくいう――別れる、出て行く――は毎度のことで、良人も子どもらも、驚かないことにきめているが、それはいつも、争いのさいごに出る脅迫で、こう冷静に、初めから身支度までして、いい出しているのは、見たことがない。
それと、父の忠盛も、すでにかの女の要求に、承認を与えているような風が見える。清盛は、急に、狼狽を感じた。憎みながら、憎い母が、自分のからだと一つものだったことが、血のなかで、響きをたてた。
『ち、父上っ』――うろたえの眼を、向けかえて、こんどは、父へ、にじり寄った。