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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

袈裟御前

『おう、臨御になられた』

そのとき、あたりで声がした。三人もすぐ突っ起った。そして、右近の馬場の端れまで、他の大勢とともに、御車迎えに、馳けて行った。

袈裟御前

和歌の集い、香を嗅く会、また、蹴まり、散楽、すごろく、貝合せ、投扇興。そのうえ四季の物見行楽だの、闘鶏だの、賭け弓だのと、およそ今ほど、遊びごとや賭けごとのさかんなときは、かつてにもない。

飛鳥、奈良のころも、四季のたのしみや、宴会、歌むしろは、ずいぶん、おおらかに、それが天賦の自然生活でもあるように送って来たこの国の人びとではあったが、こう、すべてを遊戯化してはいなかった。

宗教行事、政治儀式、何でもかでも、遊戯化してしまう。遊戯化されないのは、武門の武事だけ――という時風である。

その戦争には、上下一般、内心では恟々としていた。火ダネは、いたるところにある。強大暴慢な僧団の武力。西国、東国から週期的におこる土豪や海賊の叛乱。もっと手近いところでは、朝廷と院と、二つの政府の、対立もある。さらに近ごろ、もっぱらいわれているのは、源氏系武者と、平家系との、同種二党の急激な肥りかたである。極めて、自然な現象みたいに、それはいつのまにか、見えない育ちかたをし始め、全国的に潜勢力を伸ばしあっていた。