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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

馬上吟

『そも、あの悪盛遠めは、袈裟の首を、抱いたまま、いったい、どこへ姿をくらまし去ったものぞ。地へでも潜ったか、どこかで、自害でもしてしまったのか』――と。

馬上吟

盛遠の行方は、杳として、分からずじまいになりそうである。

凶行の夜以来、それらしい影を見たという者も出ない。

辻見張は、即夜に行われ、検非違使の手もうごき、刑部付きの放免(後の目明しの類)も、洛外の山野、部落まで、嗅ぎあるいているが、なんの手がかりも、もたらさない。

ところが、きょう限りに、辻を解くという、さいごの日に、

『上西門院の内が怪しい。あそこには、かれの縁者も仕えており、むかしなじみも少なくない』

と、清盛のまえで、いった者がある。

清盛は、家の子十七、八名をつれ、西ノ洞院一条の北、大峰の辻に、眼をそろえ、ときには、家人を放免に仕立てて付近をさぐらせたり、往来人を検めたりしていたが、これを聞くと、はっとした。

『つい、足もとは、おろそかに見る。盛遠はもと、上西門院の青侍。後に、鳥羽院へ、移されてきた者だ。――あり得ること。しかも、その上西門院は、すぐ目と鼻の先でもあるのに』

奇功をえがく胸は、たかぶるものに、張りきった。