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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

染め糸の記

『なるほど、これはひどい破れ門だ。わが家のほうが、まだ貧乏も小ぢんまりしている。……これでも、中に、人が住んでいるのかしら』

たたけば、こわれそうな門の扉である。いや、たたく必要もなく、二尺ほど、曲がって、すいていた。しかし礼として、清盛は外から訪なうことにした。頼もう、頼もう――を二度ほどくり返す。――と、内に足音がして、ガタ、ガタンと、厄介な門の扉を、持ち上げ気味に開けながら、ひょいと、顔を出した少年がある。

『おや……?』と、小冠者は、眼をまろくした。

『やア、さきほどは』

意外であった。しかし奇遇は、親しみを急速にするはずである。清盛は笑いかけた。ところが、小冠者は、かれをおいたまま、妙にあわてて、どこかへ隠れこんでしまった。

染め糸の記

水薬師の池からわく清水は、土塀をくぐって、やしき内を流れていた。布を投げたような曲線が、釣殿の床下をとおり抜け、せんかんたる小川の末は、東の対ノ屋の庭さきから、さらに木立をぬい、竹林の根を洗って、邸外へ落ちてゆく。

むかしは、別荘ででもあったものか。自然の風致に申しぶんない。しかし釣殿といえ、寝殿といえ、こうも朽ち古びている館は、洛外でもめずらしい。