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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

乳人の恋

『あ。いつぞやの、獅子丸か。……それを、きょうの祝にと、つぶしたのか。……おまえが。おまえが?』

『うん……』時忠は、にっこりした。

清盛は、あきれ顔だった。まだ十六でしかないこの小冠者に、気をのまれたかたちである。世間でこわい者は、父忠盛のほかには知らないかれであるが、よほど驚いたものらしい。なにしろ持ったばかりの新妻の弟である。そのチビにして、これほどでは、やがて北の方たるわが女性にも、自分がまだ知らない本質がどんな風に出てくるやらと、そぞろ末おそろしくなって来たものとみえる。

乳人の恋

結婚したすぐ翌年。――保延四年には、時子はもう妊娠っていた。見てもわかる体をしていた。

妻に、異状を訴えられたとき、清盛は、率直によろこべもしない、まごついたような顔色を見せた。なぜか、たった一ぺん六条裏の遊女と寝たことなどが、いやな回顧の陰影になって、突然、二十一歳で父を宣告された男の――自責をひとり脅かされた。

『……おうれしくは、ないんですの?』

『それは、うれしいさ。けれど、わが家は武門だから、男の子ならよいがなあ』

いわなければ、妻へ、悪いような気もちで、清盛は、あわてていった。