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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

長恨宮

この月の扇の持ち主はだれですか。――と責めたのである。

小女房は、顔あからめたまま、そでの陰に、身を、被き隠してうつぶしたが、女房たちが、責めてきかないので、懐紙に、歌を書いて示した。

雲居よりただもり来たる月なれば

朧げにてはいはじとぞ思ふ

――この小女房が、有子であった。院の局へ、上皇がわたられたとき、ふと、この話を、お耳にされたものだった。

上皇には、そのとき、

『月は何者かなどと、むずかしゅう、とがめだてるものではない。……さは、騒ぐな』

と、女房たちに口どめされて、有子の歌の懐紙も、そのままお持ち帰りになってしまった。

長恨宮

人はすぐ、人の外貌で、人をきめてしまいやすい。忠盛の容貌と、忠盛が地方出の武者だということだけで、院中の公卿たちは、かれの知性を見くびっているが、上皇は、むしろ反対に見ておられた。――内には、文雅をたたえているが、武人の本分を知って、外にその智をひけらかさぬ者だと、ゆかしくさえ、思っておられた。

それには、こんなことも以前あったのである。院のお使で、忠盛が、備後ノ国に下り、やがて帰洛したおり、四方の旅のはなしのあとで、上皇には、