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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

貞操百花図

洛内十二門路、九条のみちみちの口、さそくに固めて、きっと、狂者盛遠を、からめ捕られよ――』

黒ぐろと、聞きひそまっていた無数の形は、寂然と、うなずいた。清盛は、うなずく弾みに、ポロリと、自分の涙を見た。――ひらかれた盲恋の瞼から。――そして、袈裟の美しさに、光りのちがう美しさを見た。もし、一歩をかえて、自分が菖蒲小路にひかれていたら、自分も盛遠と同じことをやったにちがいないと思う。痴者、狂者。どっちが自分で、どっちがかれやらわからない。清盛には、どうも逮捕の自信はなかった。しかし、やがて夜明けの門をわかれ立つ他家の手勢の気負いを見ると、かれにも、人に劣らぬ勇躍がわいた。朝霧をついて馳け向かう鞍馬口へ、野性の眼はかがやいていた。

貞操百花図

袈裟の死は、洛中のうわさとなった。いろいろな、意味、意義をもって、話題をひろげた。

かの女を、知るも、知らぬも、

『あたら、心ばえのものを……』

と、かなしむ情は、かわらなかった。

その感情で、下手人の遠藤盛遠についても、

『悪鬼か。色きちがいか』と、いい、

『学才があると聞けば、なお憎い。あきれた痴漢よ。憎んでも、憎みたりぬ犬畜生』