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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

――そう輿諭して、うわさを、片づけてしまう堂上人も無いではない。

こうした一部の公卿たちは、

『したが、ゆゆしいことではある。一布衣の妻が、良人の身代りに、邪恋の男の刃で死んだ――というだけなら、市井の一些事。何も院をあげて、騒めくにもおよばないが……問題は、武者所にある。武者所の紊れに』

と、まったく、批判の焦点を、べつに指摘した。

『かしこくも、院の御警衛に任じ、事しあれば、洛内の騒擾にも馳せむかい、ときには、伝奏をも仕る北面の輩が、近ごろの、放埓なる素行は、何ごとぞや、遠藤盛遠に似たるは、ひとりやふたりとも思えぬ』

『されば、このたびの曲事など、今どきの若い北面どもが、いかにも、やりそうなことではあるよ』

『すでに、袈裟の葬儀もすみ、事件以来、はや数日を費しながら、いまだに、下手人盛遠を、捕え得ぬなど、言語道断。ひとりの痴漢をからめ捕るにすら、かくも能なき武者所に、なんで非常のときを、恃めようか』

ここには、堂上心理のうごきがうかがえる。ヒソヒソ、コソコソ、眼顔の集まりが、やがては、声を大にしていう。

『この責は、忠盛にこそあるなれ。忠盛が、なお、おめおめと伺候するなど、いかがあろうか』