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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

『物をおたずねいたしますが、この辺に、穀倉院の案主時信さまのお住居があるものでしょうか』

『お……。前の兵部権大夫時信どのかな? ……。お汝、知らぬか』と、僧正はまた、供の舎人にきく。

供の男は、知っていた。

この七条畷を行くと、なお西に、延喜年間の社という水薬師がある。藪をへだてた境内の隣りがすぐそれである。平氏の蔓につながるお人の不遇と貧乏はいうまでもないが、兵部仕えには不向きな学者肌で、穀倉院でも変人と評判のあるほどだから、そのおやしきとて、想像のほかであるやも知れない。――などと、舎人の教えかたは、つぶさだった。

『はははは。それでは、和殿の父の伊勢どのと、まず、似た人と申せばよい。長袖のうちにも、忠盛風の者もあるとみゆるよ。……おお、小殿。忠盛どのに、こうもいうておいて欲しいぞ。栂尾の山も、そろそろ寒うなったので、わしも、鳥羽の庵にうつり、冬じゅうは、戯れ絵など描いて、籠り居してあるほどに、まれには、遊びにわたられいとな。……』

いいのこして、覚猷は、道をべつに、別れていった。

それからまもない後。――清盛のすがたは、水薬師の大藪道を通って、一軒――というよりは一郭といったほうが正しいほど長い土塀の前に立っていた。