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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

――伊勢の平氏はスガ目にてこそあるなれ』

と、乱拍子を打ち囃して、どっと、嘲笑った。作為の見えすくどよめきだった。

こういう、あくどい即興歌は、堂上たちの、お得意だった。貴族たちが、皮肉なる悪洒落に長じていた例は、古くからいくつもある。

村上帝の御宇に、中将兼家という朝臣があった。北の方(妻)を三人もっていたので、三つ女錐の中将と、あだ名されていた。あるおり、この三人妻が、偶然、一つ所で出会い、嫉妬喧嘩が始まった。はては髪をつかみあい、衣を引き裂き、もみあい、打ちあい、人だかりまでしてきたので、中将は「あな、むずかし」と悲鳴をあげて、逃げのびてしまった。――ところが、その後、五節の宴に、なみいる公卿たちが、乱拍子を高めて、歌い囃すのを聞けば――

(取り障ふる人なき宿には、三つ女錐こそ、揉み合ひなれ。あな広びろ、ひろきあなかな)

とあったので、殿上は、鳴もやまず、笑いこけた。陛下のおん前ではあるし、さしもの三つ女錐の中将も、悄げかえったということである。

こんな話は、幾つもあるので、異とするには足りないが、スガ目の忠盛にふくむ宿意は、唱歌の嘲罵ぐらいでは、すまなかった。