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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

『盛遠が捕われるのは、いつの日やらわからぬし、そういう気にもなるかもしれぬな。おもえば、盛遠も、どこまで罪業のふかい男よ。なお、生き心地もあらず、生きつつおろうか』

『高雄の奥にかくれたとか、いや、熊野路で見たとか、うわさはまちまちだが、生きていることは、確からしい』

ここでは、世間雑談。木のまをもるかなたの灯は、上皇をめぐる公卿、僧正、女房たちの歌合わせの集いでもあろうか。離宮の大殿に、管絃の音もなく、墨のような夜を、ただ雨が白い。

『この囲いに、義清は、おるまいか。――たれか、佐藤義清を、見ないだろうか』

その時。平太清盛の顔が、外から、内をのぞいて、こうたずねた。

かれが、飲む口なのは、みな知っている。まあ、はいって、酌み給えと、声ごえに、いったが、清盛は、顔を振って、

『いや、それどころではない。よくは分からぬが、きょうの午ごろ、洛内洛外の境、羅生門の守りについていた検非違使の手の者と、佐藤義清の使いの男とが、喧嘩して、義清の召使は、拉致されて行ったということを――たった今、耳にしたのだ。おそらく、義清は、知らずにおるのではあるまいか。……と思うて、さがしておるが、見あたらぬのだ。