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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

文をよこしもせず、返しもしないときは、いやだという断りなのである。

もちろん、清盛は、いやとはしない。かの女からも、美しいかな文字の返しがきた。文には、香が焚きこめてあった。

時子は、今出川のやしきの方へ、嫁いでくるべきであったが、水薬師の時信の館の方が、古くても、はるかに大きい。武者やしきとちがい、対ノ屋もある。

で、新夫婦は、七条水薬師の館のうちに、居をもつことになった。

『それは、お似合いな……』と、両家の知人は、同じようにいった。新夫婦を祝福するのか、貧乏武者と貧乏朝臣というのをさすのか、また時信も忠盛も、相似た変り者と見ていうのか、おそらく、人さまざまな意味をもって、この結婚をながめたにはちがいない。

ともあれ、水薬師の館では、一夜、知友を招いて、ささやかながら、祝宴を催した。

ときに、時子の弟の時忠が、

『姉君のお婿さまに、いいお祝を上げようか。きょうのお客人たちへ、馳走してあげるといいからね』

と、日ごろ、父の目をくらまして飼っていたこの小冠者が秘蔵の軍鶏――例の街の鶏合わせでよく勝って来る獅子丸を、なんの惜しみもなく、自分でひねって、清盛のまえに、提げて来た。