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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

『お嫡男でいらっしゃいますよ。玉のような和子様でいらっしゃいます』

と、祝がれても、居間と産屋のあいだを、まごまごして、何か、居たたまれなかった。

『じじ。馬を出せ。――馬を』

家付きの郎党のうち、木工助家貞や、幾人かは、清盛に付いて、この水薬師の方へ、移っていた。

家貞はすぐ、駒寄せに、立ちあらわれ――。

『若殿。おうれしゅう御座いましょうず』

『ほっとしたよ。なんだか、ほっとしただけだ』

『早速、産土神へ、お礼詣でに』

『いや。何より先に、今出川へだ。じじ、この大雪だ。おまえは留守しておれ』

清盛は、門の内から、乗って出た。

すると、例の大藪道のあたりで、兄者人兄者人と、うしろから呼ぶ者がある。妻の弟の時忠だった。

『そこまで、送って上げよう。竹がたおれているからね』

時忠は、ひとり合点に、清盛の先を馳けた。雪の重さに、道へたおれている竹が多い。――時忠は、小太刀を抜いて、ぱんッと切った。切っては除け、切っては除け、兎のように、先へ飛んでゆく。そして、得意そうに、清盛をふり向いた。

『ありがとう。もういいぞ』

末おそろしい小冠者の機智と敏捷さを、けさも、清盛は、かれの小さい姿に見、そしてふと、生まれ出たけさのわが子は――と、かすかに、父らしい思いの芽を抱いた。