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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

女身至上の尊貴、国母の称と、窈窕の美とを、女の生命に、あわせうけたかの女は、まさに、地上の栄花を、身ひとつにあつめた星の君とも見えもしたろう。

人ごころの、自然な考え方は、かの女が、鳥羽のみこころを唆かし奉ったもの――と、当然のように、思いたがった。

鳥羽御自身も、そのへんの機微には、鋭敏になっていらっしゃるに違いない。

知る者は知る、上皇のお胸たるや、明らかである。語をかりて、御胸中のものをいえば、こうもあろうか。

(かつて、わが若年のとき、白河法皇が、われに試み給えるところを、われもまた、今日、崇徳に施したまでのことである)――と。

改元、また改元となって、康治元年。――その正月も、なかばを過ぎたころの、ある夕べ。

夕明りの映す、東山の枯れ木林の中を、かさこそと、ひとりの若い僧が、雪おれ枝を、拾って歩いていた。

さきの右衛門尉佐藤義清。――今は、法衣一つの、西行であった。

いわゆる“祇園精舎の鐘の声”とは、この辺の峰、山ふところなどの、朱門楼閣や堂塔の繁昌を思わせるものだが、若いこの一僧の姿には、みじんの装飾もない、仏臭さもない。

沙羅双樹の花ならぬ、枯れ木を拾っては、手に抱えた。