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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

『ま。そなたですって。……いやいや、子のそなたが、実の母のわる口を、いい出すはずはありませぬ。そこな、じじであろうが』

『いや、自分にちがいありません。……母上ッ』

『ま。何という眼。その眼は』

『そのことを、糾そうとしては、いけないでしょうか。畜生の子なら、考えもいたしますまい。が、清盛は、かなしいかな、人間の子でした。……ほ、ほ、ほんとの、父親は、たれなのか、どうしても、わたくしは知りたい』

『あらわに、忠盛どのが、今もそなたへ、いったではないか』

『お慈悲です……おことばは。――清盛は、たとえ、ほんとの男親なる者が分かっても、ここにおられる父上を、父以外の者とは決していたしません。……けれど、もうこうなっては、あなた様へは、糾さずにおきません』

清盛は、不意に、かの女のそでを、つかまえた。そして、ゆうべから涙にただれた眼じりを裂いて迫った。

『仰っしゃい。あなたは、知っている。――わたしは、たれの子だ?』

『ア、この子は、気でも狂うたか』

『狂うたかもしれません。父上が、世間に恥じて、こう長い月日、引き籠ったのも、あなたのためだ。あなたは、父上の大事な若い月日を奪った、おそろしい女狐だ』