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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

という。

『いまに見い、姫も、朱に染まって、あんな女に、成り終わろうで』

ひとのせいみたいに、かれは、妻へむかって、ぶつくさいった。

だが、やがて、五月五日の、碧い空と陽を大廂の外に仰ぐと、

『節句じゃ、不きげんは、やめよう』と愚をさとって、

『装束を出せ。そろそろ、時刻であろうが』

と、ものうげに、腰を立てた。

加茂の競馬は、きょうであった。ちまたは、人出で、熱閙をえがいているにちがいない。

家成は、毎年の例で、競馬がすんだあとの祭典係りの一員として、列に立つことになっている。――仮病も考えたが、そうもなるまいと、思い直して、束帯を着、華冠を、頭にのせた。そしてあごを上げて、妻にひもを結ばせながら、いいつけた。

『牛車をひけい。新しい方の牛車じゃぞ』

召使は、かしこまって、すぐ雑色部屋へ、支度を命じに走った。

ところが、新調の美しい牛車のほうは、すでに、泰子と瑠璃子が、相乗りで、ひと足さきに、乗って出てしまったということであった。

『あな、たわけ!』

家成は、ヘイライどもを、痛罵した。――なんで、新調の方を出したか。ひと言、自分の耳に入れないのか。瑠璃子も瑠璃子である。