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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

次の瞬間、清盛は、何かを、とび越えるような心理で、母のそばへ、寄っていた。寄ってみれば、なんの不自然もない母子を感じながらも――なおかれのひとみは、群集をはばかるように、どこか落着ききれない色をひそめていた。

泰子は、かれのその容子を、すぐ、そばの瑠璃子にむすびつけて、見くらべた。ある性期の年齢を経た女というものは、若い男女のはにかみを前に置いて、さまざまな角度からながめたり、心を読んだりすることに、ひそかな興味をもつものである。泰子は、かれを眼のすみに措いて、瑠璃子の耳へ、唇をよせた。

『わたくしの、息子ですのよ。……いつか、姫にも、お話ししたことがあるでしょう。あの、平太清盛です』

――それからまた、清盛へは、ふと、こんな幼な物語を、して聞かせた。

『そなたも、三ツ四ツのころには、中御門家で養われていたことがあるのですよ。――ちょうど、いまの姫の身上みたいに』

そこまで近づけてもらっても、ふたりは、なんの話もできなかった。清盛が胸の動悸をありあり顔に染めているのを見て、瑠璃子も、理由なく面をぱっと紅らめてしまった。そして、深窓の処女には、あまりに強烈すぎるものへ対ったように、眩げな眼をそらして、ひとにも分かるような吐息をついた。