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にっき
日記
宮本 百合子
15 一九二九年(昭和四年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 79,482 字 · 160 页
白から黒までのあらゆるバリエーションのどの音階を自分がもって居るか。その音階をつよく純粋に鳴り響かすこと。それが美だ。
或夢(神楽坂の祭日)
庭へずーっと入って行った。広い芝生で、芝生の左側は空地の感じでコスモスが咲き乱れて居た。縁側に今井邦子さんが居る。ここは今井さんの家なのだ。子供も居る。彼女は私を見ると、
おや暫くだったわねえ、さあどうぞこちらへ、そう云い乍ら一寸体をひねり、室の内に居る誰かに向って何か命じた。それは主婦らしいとりなしであった。
芝生に籐椅子などが出してある。良人の居ない昼間ののんびりしたゆたかさが芝生の上にも、女主人のはでやかな身のまわりにもみなぎって居た。
自分はその感じを味わいつつ芝生を歩き、コスモスを念入りに眺めたりしたが、ここにある生活と自分の生活とは、互に路傍のものである意識が心からはなれぬ。一寸 drop in and see you という心持で、間もなく今井さんの家を出た。
門を出て往来を右へ暫く行ったが、又気がかわって同じ道を逆戻りした。又今井さんの門前を通り、少し行くと坂だ。だらだら坂の行手に空がひろく見えた。