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にっき

日記

宮本 百合子

15 一九二九年(昭和四年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 79,482 字 · 160 页

青空文庫

鼻翼を動かして青草をかいで居たが、やがて躊躇なくその若芽を食べ初めた。おどろいて追った。自分はただ悪戯をしたのだと思った。

その晩バグダーノヴァが室へ喋りに来た。一九二五年までロンドンに居たことがあるという、貧血病の女だ。私が二月前入院した翌日から見て居る薔薇色の上被りを着て、今日血沈検査をしたらゲモグロビンが二十三%しきゃないんですよ、こないだやっと二十七%になったと思ったら……ああ、ああ飽きちゃった! 当のない嬌態で人絹の靴下をはいた脚をくみ合わせた。ゲモグロビンとはヘモグロビンのことだ。自分は病人と病気の話をするのはいやだ。胡麻塩猫が青い〔二字分空白〕の葉を喰ったことを話した。すると、この代表的プチブルジョア趣味の三十六歳の女性は、

――ああ猫はすきなんですよ、青い草。

と云った。

――私がいつだったかなぐさみにオビョース〔燕麦〕をまいてね、青々して来たと思ったら家の猫がみんなたべちまった。

――どうしてだろう。日本の猫も青いものすきなのかしら。

自分は猫好きの長谷川如是閑が猫について書いたものを思い出したが、その中に青草に対する猫属の愛好心は書いてなかった。