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かせいのまじゅつし
火星の魔術師
蘭 郁二郎
蘭郁二郎『火星の魔術師』。同一底本的分册已合并为一书。收入:火星の魔術師、夢鬼、歪んだ夢、魔像、白金神経の少女、睡魔、地図にない島、宇宙爆撃、蝱の囁き。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,120 字 · 302 页
火星の魔術師
高原の秋
「いい空気だなア――」
英二はそういって、小鼻をびくびくさせ、両の手を野球の投手のように思い切り振廻した。
「うん。まったく澄み切ってるからね、――どうだい矢ッ張り来てよかったろう、たまにこういうところに来るのも、なんともいえん気持じゃないか」
大村昌作は、あまり気のすすまなかったらしい英二を、勧誘これつとめた挙句、やっとこの、いささか季節はずれの高原に引っ張って来た手前、どうやら彼が気に入った様子に、何よりも先ずホッとした。
「そういわれると困るな」
英二がすぐ振り向いて
「何しろここまで来ると空気以外に褒めもんがないんですからね」
「まあ、そういうなよ、今年は十五年ぶりで火星が近づいているんだ、この空気の澄んでいる高原は、火星観測には持って来いなんだよ」
「そりゃそうかも知れんけど……、その辺を一寸歩いて見ませんか、星が出るまでにはまだ間がありますよ」
「うん……」
大村は苦笑すると、英二と一緒におもてに出た。
秋空に浮くちぎれ雲が、午後の陽に透けて光っていた。
火星観測――などというと、いかにも錚々たる天文学者の一行のように聞こえるけれど、実は大村昌作はサラリーマンなのだ。