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かせいのまじゅつし

火星の魔術師

蘭 郁二郎

蘭郁二郎『火星の魔術師』。同一底本的分册已合并为一书。收入:火星の魔術師、夢鬼、歪んだ夢、魔像、白金神経の少女、睡魔、地図にない島、宇宙爆撃、蝱の囁き。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,120 字 · 302 页

青空文庫

十

「いらっしゃい、何を……」

「あっ――」

「あら――」

「葉ちゃん!」

(葉子が――。やっぱりあの空の夢は本当だったんだ……)

黒吉は、愕然とした。

そして、阿呆のように、ぽかんと口を開けて佇立った儘、口もきけなかった――。

(義公と東京に行ったという葉ちゃんが、ナゼこんな所の居酒屋に……。何故、なぜ、ナゼ――)

十

「葉ちゃん、しばらくだったなア」

「ほんとに……」

「……あの、東京に行ったって聞いたけど……」

「そうよ、一度東京に行くことは行ったの、だけど、尋ねる叔父が、なんのことはない、この町に帰ったっていうんで、又来たわけなのよ……」

「ふーん、そうか……あの……あの、義公はどうしたんだい――」

「義公? ああ、あいつ仕様がない奴さ、あんまり執拗いから東京でまいちゃったんさ――よく知ってんね、黒ちゃん」

(黒ちゃん!)

その言葉を、あの可愛いい紅い唇から、幾月聞かなかったことだろう。何十年も聞かなかったような気がする……。

少女とは思えぬ鉄火口調の中にとろけるような韻律を持った、葉子のコトバ……。それが生々しく結綿に結上げられ、よく油を通された髪は男の心を根柢からゆり動かすものがあった。