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かせいのまじゅつし
火星の魔術師
蘭 郁二郎
蘭郁二郎『火星の魔術師』。同一底本的分册已合并为一书。收入:火星の魔術師、夢鬼、歪んだ夢、魔像、白金神経の少女、睡魔、地図にない島、宇宙爆撃、蝱の囁き。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,120 字 · 302 页
四
の名は、「貴志田葉子」に並んで、ゲラ紙に刷られた広告に少年少女の花形として、大きく刷り出された。
彼は、葉子と名前を並べられた事だけでも、例えようのない程、嬉しかった。それがもし、新らしい町に来て、座員一同お広目に、町中を列を造って練る時など、二人だけ一緒に小さい車に乗り行列に加わっていたが、その時黒吉はこってりと塗られた白粉の下で、どんな陶酔を持て剰していた事か――。
彼は芸にかつて味わった事のない自信を感ずると伴に、又忘れ得ぬ執着を――恰度葉子に味わったような――を感じた。
黒吉は、昔とった杵柄の、源二郎爺に呼吸を教わりながら、いよいよ恐ろしい曲芸の稽古にとりかかった。
それは、高い小屋の天井の、両端にブランコが垂らされ、その一つから、他の一つに飛移る――と、口でいえば簡単ではあるが、眼の眩むような高い小屋の空での、離れ技は、一か八かの冒険だった。一寸、手を滑らせば、遙か下の冷めたい大地に、腐った無花果のような、血の華を咲かせなければならないのだ。
四
こうした、幼き少年にしては、余りに多彩な雰囲気の中にようやく、芸と云うものと、葉子との交渉に、一日の殆んどを消費するようになってから、黒吉の周囲は、幾つかの事件を何時の間にか、過去に遺して、彼はもう十六の少年になっていた。