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かせいのまじゅつし
火星の魔術師
蘭 郁二郎
蘭郁二郎『火星の魔術師』。同一底本的分册已合并为一书。收入:火星の魔術師、夢鬼、歪んだ夢、魔像、白金神経の少女、睡魔、地図にない島、宇宙爆撃、蝱の囁き。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,120 字 · 302 页
二ノ五
二ノ五
黒吉の、唇に感じた、葉子の唇の感触は、ぬくぬくとして弾力に富んだはんぺんのようだった。妙な連想だけれど、事実彼の経験では、これが一番よく似ていたのだ。
唯、違った所――それは非常に違ったところがあるのだが――残念ながら、それをいい表わす言葉を知らなかった。
彼は、そーっと腕の力を抜こうとした。途端に、肘の下の羽目板が、鈍い音を立てた。造作の悪い掛小屋なので、一寸した重みの加減でも、板が軋むのだ。シンとした周囲と、針のように尖った、彼の神経に、それが幾層倍にも、拡大されて響き渡った。
黒吉の心臓は、瞬間、ドキンと音がして止ったようだった。
「ク……」
周章て顔を上げた彼の眼の下で、葉子は、悪い夢でも見たのか、咽喉を鳴らすと、寝返りを打って、向うを向いて仕舞った。
(眼を覚ましたかな)
黒吉は、思いきり息を深くしながら、葉子の墨のような、後向きの寝姿を、見守った。(いや、大丈夫だ)
寝返りをした葉子は、幸い、眼を覚まさなかったと見えて、直ぐ又かすかな、寝息が、聴えて来た。
彼は、ようやく※っと、熱い息を吐くと、唇に触ってみながら、蒼黒い周囲を、見廻していた……。