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かせいのまじゅつし

火星の魔術師

蘭 郁二郎

蘭郁二郎『火星の魔術師』。同一底本的分册已合并为一书。收入:火星の魔術師、夢鬼、歪んだ夢、魔像、白金神経の少女、睡魔、地図にない島、宇宙爆撃、蝱の囁き。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,120 字 · 302 页

青空文庫

由子は、大人のように、睨んでみせた。

「しないよ、俺は、そんなことするもんか――」

黒吉は、その遅れ髪のかかった頸を、燃えるように見詰めると、

「しないとも、するもんか……」

そういいながら、手を廻して、由子の肉附のいい胸に手をかけた時、その兵古帯の上に、思いもかけぬ、福よかな肉の隆起があって、あっ、と思うほど、柔らかく、暖かく、悩ましく、顫える指さきを、吸盤のように奪うのだった。

振かえった由子は、黙って、複雑に笑っていた、もうその顔は、少女ではなかった。

「あら、だめよ、だめよ……」

そういいながら、黒吉の手を、しっかり胸のところに抱いた儘、離そうとしなかった。そうして眼をつぶっていた。

黒吉も、眼をつぶった。腕の中になよなよと蠢めく悩ましき肉体は、瞼の葉子と二重写しになって、まるで、あの葉子を、力一杯抱きしめているような気がして来た。

(葉ちゃん――)

そう思うと、もう腕の中の女は、由子ではなかった。

情熱が、脈管の中を、どよめき奔った。

(葉ちゃん!)

胸の中でそう叫び、叫びながら、由子に頬ずりし、抱きすくめて行った……。

その日、黒吉は、葉子と結婚し、由子は黒吉と結婚した。