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かせいのまじゅつし
火星の魔術師
蘭 郁二郎
蘭郁二郎『火星の魔術師』。同一底本的分册已合并为一书。收入:火星の魔術師、夢鬼、歪んだ夢、魔像、白金神経の少女、睡魔、地図にない島、宇宙爆撃、蝱の囁き。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,120 字 · 302 页
「叔父さん――」
「…………」
ギョッとしたように顔を挙げた叔父の顔には、一瞬ポッと喜悦の赤味が流れた。しかしそれっきり一こともいわず、強いてするように顔を伏せてしまった。
「叔父さん、中野です。中野五郎ですよ」
だが、細川三之助は相変らず無言で、そればかりか今度はくるりと向うを向いてしまった。けれど、その老けを見せた白い鬢の顫えは、何か激しい心の動揺を物語っていたようである。
傍らの美しい女も、何か言おうとして二人の顔を見くらべたまま、胸のあたりまで挙げた手を、又だらんとおろしてしまった。
人々の間に、ガラスの仕切りが張りめぐらされたような、白々しい気持だった。
ただその中で、叔父たちを乗せた優美な白亜船だけが、波の低い深淵に、鮮かに影を落して息づいていた。
三
十五六年もの間、ぱったりと音沙汰のなかった叔父と、こうして偶然に会ったというのに、その態度のあまりの余所余所しさには、中野自身、却て狼狽に似た気持に襲われたほどであった。
そして、憤然として岩を下って来たのだけれど、やがて午下りの頃になっても、まだ、その船が静かに浮んでいるのを眺め見ると、中野はもう一遍思い直す余裕が出来て来た。