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かせいのまじゅつし

火星の魔術師

蘭 郁二郎

蘭郁二郎『火星の魔術師』。同一底本的分册已合并为一书。收入:火星の魔術師、夢鬼、歪んだ夢、魔像、白金神経の少女、睡魔、地図にない島、宇宙爆撃、蝱の囁き。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,120 字 · 302 页

青空文庫

私はその寝癖のついた断髪の後姿からヘンなものを感じて、部屋に這入ると邪慳に薬台の抽斗を開け、歯刷子とチューブを掴み出してすぐあとに続いた。

×

「お食事です……」

看護婦が部屋毎に囁いて行った。軽症患者はサン・ルームに並べられた食卓につくのがこのサナトリウムの慣わしであった。それは一人でモソモソと病室で食事するより大勢で話しながら食べた方が食が進むからであった。

「お早よう……」

「や、お早よう……」

この病棟には患者が階上と階下で恰度十人いたけれど、ここに出て来るのは私を入れて四人であった。それは私と美校を出て朝鮮の中等学校の教師をしている青木雄麗とマダム丘子――病室の入口には白い字で「広沢丘子」と書いてあったけれど、皆んなマダム、マダムと呼んでいた。だが恐らく彼女の良人は結核がイヤなのであろう、既つて一度もここに尋ねては来なかった――と、も一人女学校を出たばかりだという諸口君江の四人であった。

さて四人が顔を合わすと、第一の話題は誰それさんは少し悪くなったようだとか、熱が出たらしいとか、まるで投機師のように一度一分の熱の上下を真剣に話し合うのであった、そして食事が済んでしまっても、食後の散薬を飲むまでの約三十分間を、この二階のサン・ルームから松の枝越しに望まれる碧い海の背を見たり、レコードを