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かせいのまじゅつし

火星の魔術師

蘭 郁二郎

蘭郁二郎『火星の魔術師』。同一底本的分册已合并为一书。收入:火星の魔術師、夢鬼、歪んだ夢、魔像、白金神経の少女、睡魔、地図にない島、宇宙爆撃、蝱の囁き。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,120 字 · 302 页

青空文庫

しかし、この長き苦練は、幸い葉子の慰撫を受けて、そう単調なものではなかった、と同時に、決して無駄でもなかった。

彼は既に、この一座で、押しも押されもせぬ、花形曲芸師だった。如何にも、十六といえば、年からいっても、彼等の世界では、もう立派な、一人前の男なのだ。その上他に誰も出来ぬ、恐ろしい空を飛ぶ曲芸を、彼自身の十八番にして仕舞ったのだから――。

又ここに、忘れてならないのは、葉子の事だ。

葉子も、何時か、体全体に、脂肪を持った、ふくよかな肉がつき、円ろやかに、体から流れ出る線は、白く、そして弾力に富んで来た。又、彼女の傍を通り過ぎる時、ふと感ずる、淡い香りは、ハッキリと彼女の成熟を物語っている。尚又葉子の恵まれた美貌は、年と共に、一層、妖しき迄の完成に近づきつつあった。

白く抜出た額に、頸を振る度に、バサッとかかる、漆黒の断髪は、海藻の美だった。そして明るい瞳と小気味よい鼻は静観の美であり、かすかに開かれた紅唇から覗く、光さえ浮んだ皓歯は、観客の心臓を他愛もなく刳るのだ。

この美しき葉子が、何故、あの醜くい容貌を持った黒吉に好意を見せるのか――。