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かせいのまじゅつし

火星の魔術師

蘭 郁二郎

蘭郁二郎『火星の魔術師』。同一底本的分册已合并为一书。收入:火星の魔術師、夢鬼、歪んだ夢、魔像、白金神経の少女、睡魔、地図にない島、宇宙爆撃、蝱の囁き。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,120 字 · 302 页

青空文庫

「そんなこと、いまいったって駄目よ、ここにあんたが居るってのを知ってるのは、あたしぐらいなもんだわ――」

こういって、葉子は、ずるそうに笑った。

「なんだ、じゃ葉ちゃんは、わざと俺に教えなかったのか……。ひどいなア」

「そうでもないわ、まあいって御覧なさいよ」

(ひどい奴だ。何故俺に教えないんだろう。親方が怒るとどんなもんだかも知ってるくせに……)

と、彼は思ったが、葉子の喋ったあとで、しっとりと濡れた、色鮮やかな唇から流れ出す言葉に、反抗する気には、なれなかった。

「うん、いってみよう……」

黒吉は、それだけいうと、あとの言葉は、胸の中に吐き棄て、歩き出した。

(あれは、普段から、バカに大事にしていたようだ、ほんとになくなったら、きっと、俺にひどくあたるぞ)

黒吉は、歩きながら、持前の陰鬱が、倍加されるのを、自分でも感じた。

行って見ると、部屋の隅に、親方がむっつりとして、舞台の用意に自分のシルクハットの埃を払っていた。そして、その附近には、衣裳部屋、支度部屋――無論、簡単に幕で仕切られたものだが――などを出番の遅い座員が、如何にも、捜しています、というように、歩き廻っていた。