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かせいのまじゅつし
火星の魔術師
蘭 郁二郎
蘭郁二郎『火星の魔術師』。同一底本的分册已合并为一书。收入:火星の魔術師、夢鬼、歪んだ夢、魔像、白金神経の少女、睡魔、地図にない島、宇宙爆撃、蝱の囁き。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,120 字 · 302 页
(何故あんな所から覗こうとしたんだろう)
不思議でならなかった。明らかに葉子は、覗こうとして、箱に上り、それがひっくり返って、あんな音を立てたに違いない。
(俺が怒られると思って、心配したのかな)
彼は、葉子の、可愛いい紅唇を憶い出した。
(だが――)
黒吉は、さっきの危うく身を粉々にしようとした、恐ろしい瞬間に、案外平気な顔をしていた、むしろ妖しい笑いさえ浮べていた葉子の好奇の眼が、スーッと網膜を過ぎると
(あいつ、俺がどんな事されるかと思って見に来たんだな)
そうした、生れて始めて葉子に、ある冷めたい気持を感じた。
(確かにそうだ)
心配して来てくれたのなら、いま親方が居ないのだから、慰めの言葉一つ位、かけてくれる筈だ――、それに、葉子は時々黒吉を撲って、不思議な愉悦を覚えるらしいのだ。
(ちぇっ、綺麗な顔してやがって)
黒吉は吐出すように呟いた。
「黒公。黒……」
親方だ。彼は思わず、ドキッとすると、周章て振返った。
「黒公、見ろ、あったぞ。不思議だよ、実際」
親方は、そういうと、キョトンとした黒吉の眼の前へ、左手を突出した。その節くれ立った、頑丈な左手の、薬指のつけ根には、何時ものように、あの金の地に、何か彫られた指輪が、黙々と光っていた。