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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
「親孝行もんよ。おふくろも安心でがんひょう。でも、その煙草葉、大丈夫なのけえ?」
「大丈夫とも」
深い谷の底である。四方の山がきりたっているので、この部落には、朝の光線がさすのはおそく、日の暮れるのは早い。まして、日の短い秋であるから、まだ三時というのに、もう黄昏のようだ。部落の名は、広島県比婆郡峯田村字峯。
はげしいせせらぎの音をたてる谷川の岸で、二人の若い村の娘が話をしている。健康そうなのは共通しているが、マンの方は丸顔の小柄、キヌの方は長顔で、おそろしく背が高い。
粗末な木綿着のマンは、川岸にある二段歩ほどの煙草畠にしゃがみ、しきりに落ちた古葉をさがして重ねる。ていねいに、皺をのばす。なれた手つきである。
野良着で、手に鎌を持っているキヌの方はススキの林のなかに、あおむけにひっくりかえって、
「やあれ、もう、狐さんたちが鳴き騒いどらあ」
と、のんきたらしく独りごとをいいながら、無意味に、バサッ、バサッと、ススキをたたき切っている。
深い山には、狐、狸、兎、猿、などがたくさん居り、ときどき、猪があらわれることがあった。昔から現在にかけて、狐に化かされた話は数えきれない。