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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
マンは、眼をかがやかして、それをいう。
青春の夢の構図は別々で、方角は西と東とに別れていたけれども、雲を望む漂泊と放浪の思いは共通していて、どちらも、これからの人生の難行路を歩むのに、よい伴侶を得た、と満足していた。夢も健康であれば、肉体も健康であった。
下関の街に揃って出て、世帯道具を買いととのえた。あまり一度に買うと、楽しみがなくなるので、一つずつ、間に合わせの物から買った。といっても、貧乏生活で、箪笥一本買えず、ただ、鍋、釜、バケツ、水がめ、米とぎ桶、飯台、箸、茶瓶、などというような、まったく、食うに必要な、最小限度のものばかり、新夫婦のくるまって寝る蒲団も、「なんでも屋」から、借りたものだった。
それでも、ぼろ家の表に、「玉井金五郎」と、自分でしたためた表札を出すと、一家の主人のような気持になる。金五郎は、小学校も満足には終えていなかったが、独特の、どっしりした、肉太の字を書いた。
「うまいもんじゃなあ」
「なんでも屋」が、表札の字を見て感心し、自分の店の看板を頼みに来たりした。
ところが、二人の新家庭は、僅か二週間と続かなかったのである。