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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
「どうやら、勝ち戦らしいのう」
「ロシヤのような大きな国に仕掛かって、日本みたいな小さい国が、ようも、ここまで、やったもんじゃ」
「図体が大きいばかりじゃあ、なんにもならん。小そうても山椒はピリッと辛い。正義には、勝てるもんか」
「それでも、旅順が、なんぼ攻めても落ちんころには、ひやひやしたのう」
「日本が勝ちゃあ、港も、景気が出るばい。そん時は、ゴンゾ様々たい。……なあ、ボーシン」
呼びかけられて、金五郎は、帳面をつけていた手を休めた。
「なんか、いうたな?」
「ロシヤが負けたら、港の景気も出て、こちとらゴンゾも、芽が出ろう、というたとよ。ボーシンの考えは、どうじゃ?」
「そら、芽が出るじゃろうよ」
金五郎は、仕方なく、そう答えたが、彼の厚い胸の中の芽は、そんな、ここの港だけのような小さな芽ではなく、支那大陸へおろされ、すくすくと伸び、無限にひろがる壮大な芽であった。
(いよいよ、宿願の大陸へ渡れる時期が近づいたぞ)
金五郎の眸は、遠い空を望む。
金五郎の着ている印半纏の襟には、両方に、永田組の文字が染め抜かれ、上部に、助役と、赤で入れられてある。助役をボーシンというのは、汽船用語のボースンが訛ったものらしく、一つの組の世話役を意味している。