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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

そのぼんやりと霧をかけた瞳に、うす化粧しているお京は、夢幻の女のように、妖艶に映る。

「金五郎さん、逢いたかったわ。道後の初会のときから、あなたのこと、忘れたことなかったのよ。いつか、逢えると思ってた。今日逢えて、うれしい」

「わたしもですよ」

そんな出鱈目の言葉が、自然のように、口をついて出る。

「さあ、酌をさせて」

「お京さん」

「あい」

「あんた、さっき、なにか、わたしに話があるというたなあ?」

「もっと飲んでからで、いいわ」

盃が、梭のように、二人の間を往復する。金五郎も弱い方ではないが、お京の強さはおどろくばかりだった。金五郎と対等に飲んでいるのに、男の方は、深酒とともに、意識不明になって行き、女の方は、いよいよ、青くなって、冴えかえる。胸に一物あるので、酔わないのかも知れない。

「女なんかに、負けてたまるもんか。……馬鹿にすんな」

そんな負け惜しみを、くどくどと、くりかえしていた金五郎は、遂に、前後不覚に、酔いつぶれた。……

どれくらい、時間が経ったか。

ふと、眼をさました金五郎は、あたりを、きょときょと、見廻した。森閑と、静まりかえっている。先刻のどんちゃん騒ぎも、聯合組の仲間も、大広間も、いつの間にか消えて、六畳ほどの一室に、一人、寝かされている。