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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
夫婦は、寝物語に、いく度、「新公はどうしたかなあ」と、話しあったか知れない。
「森の新さんは?」
君香を招じ入れると、マンの口をまっ先について出たのは、その言葉だった。
「新之助はんは、福岡の監獄に居やはります」
「監獄?」
「へえ。実は、そのことで、あて、伺いましたのやけど、……玉井はんは?」
「うちのは、こないだから、ちょっと、旅に出とりますけど、……新さんが、どうして、また監獄なんかに?……」
聞きたいのは、なによりも、そのことだった。
彦島のとき、洋装のハイカラ美人として、マンたちの眼をそばたてさせた君香は、もう、どこにもいなかった。なにからなにまで純日本式で、どこかの料亭の女将風である。鬘下にした頭髪も小粋だし、黒襟からのぞいている青いほどの襟足も水々しい。あの時分から、下ぶくれの丸顔に、落ちついた表情があったが、二年間の歳月が、さらに、その顔に或る重味を加えている。それは、太々しさのようにも見えた。唇の右下の黒子だけが、昔のままだ。
マンの汲んで出した番茶をすすりながら、君香は、家の中を見まわした。
「赤ちゃんは、出来はらしまへなんだのだッか?」