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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
谷川には河童がいるという。河童と角力をとったという老人が、自分の実見談を、炉辺で、まじめな顔して話す。
マンは、煙草好きの父のために、一枚でも余計に葉をひろうつもりである。においの強い、黄色い枯葉が、笊のなかにたまる。
すると、寝ころがっていたキヌが、突然、くるりと起きあがった。なにかを見つけたらしい。
「マンさん、大事、鬼が来たよ。早よ、隠れんさい」
切迫した語調で、叫んだ。
おどろいたマンも、狼狽したが、おそかった。
「こらあ、逃げることならんぞう」
と、太い声が、山の道からひびいて来た。
観音堂のある山道の曲り角にあらわれた一人の大男が、大股でバネ仕掛のようにとびながら、かけ降って来た。黒い中折帽をかぶり、黒い詰襟服で、これも黒の皮カバンを右手にぶらさげている。顔いろも、日やけと酒やけで赤黒く、ちょび髭が木炭をくっつけたようだ。
「とうとう、見つけられたなあ。ええかげんで、早よ、やめんもんじゃけえ」
キヌは、もう、青くなっている。
「かまうもんか」
観念したとみえて、マンは、煙草畠のなかに立ちあがって、男の近づいて来るのを待った。煙草の葉を入れた笊だけは、畠のくぼみに隠した。