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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

にじり寄って来る時次郎の膝が、マンの膝小僧にぴったりとくっついた。しかし、マンは、身体を引こうとはしなかった。興奮した時次郎は、女の手を取った。それも、マンは、なすがままにしていた。

「無理なこと?……今ごろになって?……」

「そうじゃないの」

「無理なことがあるもんけえ。今からだっても、遅うはなあ。今すぐ、夫婦になろう。おれは、あんたが、一度は村を出ても、きっと、また、帰って来ると思うて、待っとったんじゃ。そりゃあ、夫婦約束したわけでも、なんでもなあ。じゃけど、もう、おたがい、心の中ではわかっとった筈じゃ。なあ、マン坊、そうじゃろ?」

「時やんの嘘つき。浮気ン坊。キヌさんのことは、どがあにしたとな?」

皮肉をいおうとして、思わず、故郷の言葉になった。

「キヌ坊?」

「そうよな。キヌさんと大層仲ようして、あたしのことなんて、どがあでも、よかった癖して……」

マンの眼に、ありありと、黄昏の水車小屋の風景が浮かんで来た。ススキの穂の光る流れの土堤で、時次郎とキヌとが、肩を接するようにして、むつまじげに、なにか語らっていた。いかにも楽しげに、笑いさんざめいていた。