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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

その二人が、狐と狸のように見えた。そのとき、(なあんじゃ、そうじゃったのか)と、投げだされた気持になり、はじめて感じた嫉妬の思いに、村をすてる決心が定まったのであった。

時次郎は、仰天した顔つきになって、

「とんでもなあ。キヌ坊と、おれと、なんのことがあろうか。そりゃ、友達じゃけえ、話をしたことはある。水車小屋のところで出逢うて、専売局の「鬼」が、狐にだまされた話して、笑うたこともある。じゃけど、友達なら、そがあなことは当りまえじゃなあか。マン坊、お前、おれを嫌うて、難癖でもつけよるのとちがうか。おれは、真剣じゃぞ。キヌ坊は、もう二年も前に、高門の武十旦那の三男坊に貰われて嫁った。おれは、女子のことは、マン坊のほかに考えたことはなあ。郵便局もなにも、放からかして、村を出たんじゃ。おれと夫婦になってくれんさい」

「時やん、あんた、あたしが、もう人の嫁女になっとることが、判りんさらんとな?」

「門司の林助兄さんを尋ねて行って、あんたの行先を聞いたんじゃよ。そんとき、玉井金五郎とかいう変な男に誘われて、下関の彦島に渡ったと教えられた。その玉井の嫁女になったとは、聞かなんだよ」