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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

盆のとき、父から、「これからも、そんなことはある。よう覚えとけ」といって、教えられた女の護身法を、習ったとおりに実行したのであるから、手柄顔で報告してもよいのに、マンは沈黙を守った。はからずも、危険から身を守ることができはしたけれども、その方法は、純真で一本気な若い娘を、はげしい羞恥におとしいれたのである。得々と報告するどころか、真実を知られることを恐れた。マンに、新しい一つの秘密ができた。

けれども、また、別にマンの心の奥底に、奇体な力が生まれていた。

――女でも、必死になれば、自力で、男に負けぬ仕事をすることができる。

その、胸のふくらむような、自覚と、自信とであった。

一週間ほどが、過ぎた。

村の煙草工場の開所式が、盛大におこなわれた。貧乏部落のくせに、なにかの行事は派手にしたがる癖があって、この工場開きの日は、まるで、お祭騒ぎであった。

「こんな名誉なことは、なあよ。これで、わしも、もう、いつ死んでもええ」

村長は、禿げあがった頭をたたいて、本心から、そういった。まだ電燈もつかない、こんな山奥の村に、政府の指定機関が出来たことは、村長にとっては、一世一代の晴れであったかも知れない。